「チュロス屋のどでん」

西田幾多郎の「アブセンス・オブ・マインド」を読んで思い出した自分のエピソード。


チュロス屋のどでん」


ある朝、チュロス屋さんで注文が出来上がるのを待っていた。
揚油の香り立ち込める小さな店の片隅のテーブル席に腰を掛け、靄がかった通りを横目に小さく縮こまる。
TVニュース、ちぢれるような油のダンス、つまらなさそうに新聞をめくるおじさんの背中。
そこに入ってきた数名の客に「その椅子空いてる?」と聞かれ、とっさに「いえ」っと答える。
連れのために取っておいた椅子だから・・・
しかし、カウンター越しの店主の冷たい目線にハっとなる。
「空いてるわよ、どうぞ使って。」
え、だってこの席は・・・と思ったのもつかの間、
私が縮こまるのに使っていたもう一つの椅子が
どでん!
とそこにあるではないか。
こういうことをいうんだな、
アブセンス・オブ・マインドってのは。