口笛通り

さっき、
大学からの帰り道、
住宅街の路地を歩いていると、
どこからか口笛が聞こえてきた。


ややうつむき加減だった頭を
ひょいと上げてみる。


(うつむいてたのは別に落ち込んでいたとかそういうわけじゃなく、
道路の落ち葉とか、石ころを眺めながら歩くことがよくあるからで、
石畳のときは石と石のあい間とかが気になる、みたいな無意識な目線は
きっと誰にでもあることなんだと思う。)


辺りを見回すが、誰もいない。
人っ子一人居らぬ。


こんなときスペイン語では
「(全知全能あらゆる所に存在するはずの)神様さえ居ない」
というような言い方をする。


まさにそんな状況で、
いったいどこで誰が口笛を吹いているのか、
気になって仕方ない。


ピ、ピゥ〜〜♪と、またもや聞こえてくるこの音色、
ラテン系の男性がよく
「通りすがりのかわいい(あるいは綺麗な)お姉ちゃん」
の気を惹くために使うおなじみのピロポメロディーなわけで、
気になって仕方がないのも、一瞬心がときめいてしまったのも、
実はそのせい。


ちなみに「ピロポ」というのはスペイン語で『口説き文句』という意味で、
歳がいくつになろうと、恋人や生涯寄り添える人がいようといまいと、
ピロポを聞いて溢れくるときめきは否定できないもので(笑)。
中には(運が悪い時などに)へんな親父に吐きかけられる、気色の悪い、
あれはもうピロポでもなんでもないと言いたくなる様な
下品な口説き文句もあるわけですが。


それにしても、周りを見渡しても、やっぱり誰もいない。
アパートやマンションが立ち並ぶ住宅街だから、
きっと誰かがベランダから通りを眺めつつ、
通りすがりのプリティー(?)アジアン(つまり私のこと)を
冷やかしているのかもしれない・・・


なんてささやかな期待をよそに、
窓辺のハンサム男子は未だ現れず、
すたすたとまた我が道を進み始める。


すると今度は、ピ、ピゥ〜〜♪がいくつも畳み掛けるように聞こえてきて、
通りは一気にピ、ピゥ〜〜♪合戦、ピ、ピゥ〜〜♪合唱、やまびこ状態。


立ち止まり、ちょっと耳を澄ましてみると、
ようやく正体が分かり始めた。


それは、ベランダの洗濯物の影に隠れた鳥かごからさえずる小鳥たちの声。
それも一軒だけじゃない、数軒のベランダから聞こえてくる。


顔も知らないお隣さん同志で会話を楽しんでいるとも思えるが、
あるいはまた飼い主に教わったピロポで口裏合わせて私を冷やかし面白がっているのか。


まあ、どちらでもいい。
これといって見所の無い住宅街も、
軽やかな「口笛」が聞こえてくると
足取りがはずむもので、


「これがピロポならなおさらハッピー♪」


とほくそ笑む、
そんな私ははたから見れば不信人物かも・・・



口笛通り、



そんなタイトルの鼻歌が浮かんできたから、
いっそ歌詞でも書いて、メロディーつけてみよっかな。


ピロリロリ〜♪