★スペインの小学校で日本文化を紹介★

 本日は朝からサラマンカ郊外にあるカルバホサという町の小学校へ出向き、4歳から10歳までの100人以上の子供たちの前で日本についてお話をして参りました。(残念ながらマイカメラを持ち合わせていなかったので、後で他の人に撮ってもらった写真を記念に載せようかなぁと考えてます。)
 
 下準備の段階 
 
 お仕事のきっかけで知り合いになったボリビア出身のジャケリンヌさんから数週間前にお願いされて、ひとつ返事でお受けしたものの、何せ子供たちを相手にしての「プレゼン」は初めて。どうすれば子供たちに日本について興味を持ってもらえるかな、楽しんでお話をきいてもらえるかな、などと試行錯誤をしながら、昨日は午後の空き時間を使っていろいろと準備作業をした訳ですが、スペイン人である私の夫も話し方のアドバイスをくれるなどいろいろと手伝ってくれ、大助かりでした。
 
 今でも(あるいは未だに?)大学生の私は、専門的なことを専門的な用語で説明することには一応慣れている訳ですが、今回は勝手が違います。子供相手に単調な口調で知識を羅列するのはNG。前もってつくった原稿を参考に、地理や歴史などのいかにも「日本文化入門」というお堅いタイトルがつきそうな、それこそドがつく程マジメな話をしていましたら(照笑)、さっそく夫からのちょっと待ったコール。(スペイン語で)「だぁめだぁめ。そんなんじゃ子供たちに欠伸を通り越していびきをかかれちゃうよ。注意を引くには内容をもっと簡潔にして、イラストや写真をもっとふんだんに使いな。子供たちの興味があるアニメとか、動物とか、音楽とか、五感に響くことをしなきゃ」などと、彼のお陰で次から次へとアイディアが飛び出し、「プレゼン」内容も様変わり。(手伝ってもらって、はぁ良かった。)

 結局、温泉につかっているニホン猿や動物たちの写真、巨大なジンベエザメのいる美ら海(ちゅらうみ)水族館(密かに地元宣伝♪)の写真などをインターネットからダウンロードしてカラーコピーし、あとは日本から持ってきた浴衣と、こちらで購入したお箸と日本食用の食器類、虫や動物の形をした折り紙などなど、とにかく家中の引き出しからありったけの「日本文化」を引っ張り出して、それを翌日の朝鞄につめて、いざ出発進行したわけでございます。
 
 当日の朝の様子
 
 さて、待ち合わせの場所、スペイン広場にあるチューロス屋台に着くと、ウクライナ出身のイリーナさんとブラジル出身のスラミタちゃんがすでにバス停の前にいらしてて、初対面のために彼女たちが今日のイベントに参加するとはいざ知らず、私はかじかむ両手をポケットにつっこんだまま、黙ってそこに立っておりました。しばらくすると横断歩道を駆け足で渡るジャケリンヌさんの姿が見え、しきりにこちらに笑いかけています。そこで初めて気がついて、互いに軽く自己紹介をして、頬キスを交わしながらスペインスタイルの挨拶。そこにアンゴラ出身のレオ君もくわわり、いよいよ国際色を増した一行は、寒くなってきたねー、風が強いねー、などとたわいのない談笑をしながら、お互いに用意してきたものを見せ合い、そのうちに迎えに来てくれたフィンランド出身のピルコさんのこじんまりとした清潔な自家用車に缶詰秋刀魚のようにぎゅうぎゅう詰めで乗り込みました。
 
 私の隣に座ったウクライナのイリーナさんが緊張気味になって、「私ほとんどなにも準備してないのよ、ウクライナって東欧だから、アジアと西欧ほどの違いもないでしょ、何を話せばいいのか正直言って分からないわ」、と話しかけてきたので、「私も少し緊張しているけど、なにも心配することないわよ、似ててもいいじゃない、ウクライナの子供たちはどんな学校生活を送っているのかとか、何を食べるのかとか、そういう話をすれば子供たちは喜んでくれると思うよ」と声をかけてあげると、少し安心したように、彼女の国の話をしてくれました。国の面積、人口、食事について調べながら、自分も知らないことがたくさんあったのだと新鮮な驚きを語ってくれ、私も彼女の意見に大いに賛同しておりましたら、あっというまに目的地に到着。
 
 サラマンカ県 カルバホッサ市 パブロ・ピカソ小学校にて
 
 カルバホサの小学校は、サラマンカ郊外とはいえども、なかなか立派で新しい校舎を構え、正門の玄関口に掲げられたEUとスペイン国旗に並んでサラマンカの旗(?)が強い風になびき、その外観を印象付ます。建物内に入るとすぐに教師陣チーフの方が私たちを笑顔で迎えてくださり、職員室に案内されました。私の通っていた小学校やTVなどで見てきた日本の一般的な職員室とは違い、そこには長テーブルがいくつか中央に配置され、25席ほどの椅子がテーブルを囲むようにして並べられているのみ。教師たちはそれぞれのデスクを持たず、必要なときや会議のときにそちらに集まり、コーヒーを飲みながらある程度リラックスした雰囲気の中で各クラスの準備をするというのが普段の情景のようです。 
 
 しばらくして、今回の文化活動を担当するペドロ先生が入室。少し大柄な体つきに、黒縁めがね、短髪をジェルでピンと立てたヘアスタイルの彼は、小学校の先生らしく気さくな方で、お話会の段取りを説明し始めました。と、口を開くや否や、「今回皆さんが話してくれることはすべてラジオで放送されることになっているので・・・」、そこで一斉にどよめきが沸いたのも当然、「そんなこと何にも聞いてませんでしたよぉー」と目線でやり取りする私達。ま、それはそれで面白い経験になるので大歓迎なわけですが、いちおうそこは平凡なリアクションをしておいて、内心はウキウキワクワクというのが実際のところだったかと思います(笑)。
 
 さっそく文化紹介の行われる教室に着きますと、そこでは4、5歳の子供たちが二人につき1つのコンピューターを前にお行儀良く座り、なにやら情報科学演習の授業を受けています。デスクトップがどうのとか、ハードディスクがどうのという先生の指導を静かに聴きながらマウスを操作する子供たちの姿。もはやIT時代はそこまで浸透しているのかと、浦島太郎のような気持ちであっけにとらわれるもつかの間、邪魔にならぬよう忍び足で教室に入り、文化紹介の準備を開始。

 異文化紹介のクラス、始まり始まり。
 
 まず初めのお客様は3年生の学級の子供たち30名。ラジオ収録も同時に行われるため、ペドロ先生が司会者を募ると、ほぼ半分の子供たちが元気いっぱい挙手。そのうちの一人、サムエル君が見事抜擢(ばってき)され、さっきの元気とは打って変わって恥ずかしそうに私たちの前へにじり出(い)で、先生からマイクを受け取ると、今度はやはり嬉しそうにそれを受け取り音楽に合わせて司会をする。周りの子供たちはし〜んとなりつつも、マイクを握った同級生をにやにや見つめながら面白がっている様子。

「3年F組。僕はサムエル。これからいろんな国の文化についてお話をしてもらいます。」MCの合間合間にブラジルのサンバがBGMとして軽快に鳴り響き、子供たちは思い思いに頭や肩や首などを揺すってリズムを刻んでいます。司会のサムエル君も先ほどまでの緊張が大分ほぐれていく様子でした。コの字型に配列された机に子供たちが身を乗り出して、私たちの方を見つめています。いよいよ「ミニプレゼン」のはじまりはじまり〜。

 子供たちの反応やいかに
 
 まずはウクライナのイリーナ。車の中で私に話してくれた内容を一通り話し終えると、さっそく子供たちからの質問タイム。「ウクライナでは何語が話されていますか」、「むこうは今何時ですか」、「どんな食べ物がありますか」などといろんな質問がひっきりなしに飛び交った後、次はブラジルの文化紹介。
 
 スラミタちゃんが世界地図を見せながらブラジルがとても大きな国であること、ブラジル人は音楽や踊りが大好きで、世界でとても有名なリオ・デ・ジャネイロのカーニバルがあること、フットボールが盛んで、カカなど有名な選手が多いこと、アマゾン川などの流域には様々な原住民族が暮らしており、ワニや蛇やオウムなどの色とりどりの動物がいることを話し、ところどころで子供たちが「アッラァ(スペイン語の驚きの表現)」などと声を上げながら聞き入っていました。

 その次にレオ君が、アンゴラはアフリカ大陸にあり、とても暑い国で、肌が日に焼けて黒い色をしていること、ブラジルやポルトガルのようにポルトガル語がはなされていること、他にも様々な部族の言葉があること、サバンナという砂漠広原地帯にライオンやシマウマなどたくさんの動物が生息していることなどを、紙芝居のおじさんが話すようなしぐさと口調で話して聞かせます。

 そして最後に私の番です。まずは「おはようございます」とお辞儀をしながら日本語で挨拶。子供たちはあんぐりと口を開け、ぽかんとしています(笑)。そこで「今、日本語でBuenos Dias(ブエノス・ディアス)と言ったのよ」というと、みんなで声をあわせてブエノス・ディアスと返してくれました。
 今度は自己紹介。「私の名前は●●●で△△△という意味です。日本では人の名前は常に何かを意味するんですよ」と言うと、そこでまたうわぁー歓声が起こりました。私の名前と苗字の組み合わせがちょうど語呂合わせが良く、面白かったようです。
 それからは日本についてたくさんの事を話しました。

  1. 日本という国ががスペインから地球のほぼ反対側にあること、
  2. 飛行機で何時間もかかる海の向こうにあり、雨や雪がよく降るため水資源が豊富なこと、
  3. 火山や地震が多くあり、火山のお陰で温泉もあること、
  4. 色紙で作った日本の国旗の話、日本が日の出ずるところの国と呼ばれていること、
  5. 日本ではスプーンやフォークではなくお箸を使ってご飯を食べること、
  6. 家の中にはたたみがあり、靴を脱いで入り、そこに座布団と言うクッションを敷いて座ること、
  7. 昔は着物や浴衣と言って生地一枚でできた服を普段着にし、靴ではなく下駄を履いていたこと、
  8. よくお米を食べ、他にもスペインにはない豊富な食材があること

などなどです。
 子供たちがイメージできるように、できるだけオーバーな表現を意識しながら、そして時折子供たちに質問などを投げかけながら、ゆっくりとした口調で話していきました。また、最後には筆ペンで文字を書いてみせ、折り紙の動物などを見せてあげました。
 
 子供たちの反応は十人十色。何かにつけてコメントしたり、大きなリアクションをとる子があれば、じーっと一言も話さず、分かっているのか分かっていないのか分からないようなぽかんとした表情で(笑)黙って聞いている子もいたり。質問コーナーになるとたいがいの子供たちは腕がひっちぎれんばかりに手を上げて、なんとも微笑ましい様子でした。1時間ごとにクラスの入れ替えがあるため、あっという間に時間が過ぎたという面持ちで、残念がる子もいましたし、終わると同時に前に駆け寄ってきて折り紙やサバンナの写真をめずらしそうに見入る子供たちもありました。
 
 そんなこんなで4時間の異文化紹介が終わり
 
 その児童たちが、教室を出入りする時には必ず一列になり、先生たちの誘導の元、おしゃべりもせず、静かに出入りしています。この年齢にしてあの落ち着きにはさすがに感心させられました。

 きちんとしたしつけと、子供らしくび伸びとした生活は、決して相反するものではなく、両方が良いやりかたで組み合わされれば相乗効果を生み出すのだと教えてもらった気がします。